ポンコツ先生の自己満へそ曲がり国語教室と老害アウトドア

中学校の国語や趣味に関する話題を中心に書いてます。

「夏の葬列」(山川方夫 教育出版2年生)で感じた違和感①

まずネタバレにならない程度にあらすじを紹介します。(教科書で読んだ、という方には無用ですが、教育出版の教科書ではなかった方もいらっしゃると思うので一応)

 

出張帰りのサラリーマンである主人公は、まだ戦時中だった十数年前の小学生の時、疎開していたある町の駅に、思いつきで降り立った。真夏の太陽が照りつける中、懐かしさを感じながらふらついていると、緑の葉の生い茂る芋畑の向こうに、葬列が動いているのを見つけ、昔疎開していた時のある出来事を思い出した。

東京から疎開してきた彼は、同じく二人きりで東京から疎開してきた、2年上級の5年生で、弱虫の彼をいつもかばってくれる、真っ白なワンピースを着た「ヒロ子さん」と、同じく芋畑の向こうで動く葬列を見つめていた。葬列のところに行けば葬式まんじゅうがもらえるかもしれないと思い、主人公は「競走だよ!」と言って芋畑の中を突っ切って葬列に向かった。それに対して、ヒロ子さんはあぜ道を大回りしている。

(ここで授業では、「なぜヒロ子さんは彼と一緒に芋畑の中をショートカットしなかったのか?」なんてのが、定番の発問になりますね。生徒からは「ワンピースが汚れるのがいやだった」「畑を荒らしてはいけないと思った」「彼に花を持たせてやろうと思った」「芋は戦争時貴重な食料だったから」「ヒロ子さんは大柄で大人ぶっていたから、ガキくさいと思った」等、「どれが正解とは言えないけれど、どれも間違っていない」という、「みんな違ってみんな良い読み取り」が出てくる、楽しみなシーンではあります。国語のこういうファジーというか良い加減というか、そういうところが私の性分にはあってます。というか理系は能力的にムリ。)

話を戻しまして、突如カンサイキ(艦載機、なぜカタカナで書いてあるのか?なんてのも定番の発問ですね。)が現れ、葬列に銃撃を加えはじめる。彼は恐怖で芋畑に倒れ伏し、必死に芋の葉を引っ張って隠れようとしていた。こここからは、あらすじではなく原文を(中略で)引用していきます。(改行するとなぜか一行空いてしまうのですべて詰めてあります。悪しからずご了承ください。)

(原文)「二機だ。隠れろ!またやって来るぞう。」奇妙に間延びしたその声の間に、別の声がさけんだ。「おーい、引っこんでろその女の子、だめ、走っちゃだめ!白い服は絶好の目標になるんだ、……おい!」 白い服──ヒロ子さんだ。きっと、ヒロ子さんは撃たれて死んじゃうんだ。その時第二撃が来た。男が絶叫した。(ここで「白いワンピース」の伏線が生きてきます。主人公は必死に隠れています。)(中略)突然、視野に大きく白い物が入ってきて、柔らかい重い物が彼を押さえつけた。「さ、早く逃げるの。一緒に、さ、早く。だいじょぶ?」目をつり上げ、別人のような真っ青なヒロ子さんが、熱い呼吸で言った。彼は、口がきけなかった。全身が硬直して、目にはヒロ子さんの服の白さだけがあざやかに映っていた。「今のうちに、逃げるの、……何してるの? さ、早く!」 ヒロ子さんは、怒ったような怖い顔をしていた。ああ、ぼくはヒロ子さんと一緒に殺されちゃう。ぼくは死んじゃうんだ、と彼は思った。声の出たのは、そのとたんだった。不意に、彼は狂ったような声でさけんだ。「よせ! 向こうへ行け! 目だっちゃうじゃないかよ!」「助けに来たのよ!」ヒロ子さんもどなった。「早く、道の防空壕に……。」「いやだったら! ヒロ子さんとなんて、一緒に行くのいやだよ!」夢中で、彼は全身の力でヒロ子さんを突き飛ばした。「……向こうへ行け!」悲鳴を、彼は聞かなかった。その時強烈な衝撃と轟音が地べたをたたきつけて、芋の葉が空に舞い上がった。辺りに砂ぼこりのような幕が立って、彼は、彼の手であおむけに突き飛ばされたヒロ子さんがまるでゴムまりのように弾んで空中にうくのを見た。

引用は以上です。緊迫感の伝わる、いいリズムの文章だと思います。この小説は本当にあちこち「良い意味で」突っ込みどころが多くて、ついつい細かい描写の読解に時間を費やしてしまいます。(艦載機が日本本土に来るということは、すぐ近くまでアメリカの空母が来ているということで、そのことからも終戦間近だとわかる、とかね)さて、この原文抜粋の箇所で、「作家は細かいところまで神経を使って書いていて、無駄な表現はない。」「表現で何か違和感を感じるところには、裏があると思って読め。」と言っている私が、妙な違和感を感じた箇所があるのですが、それはどこだと思いますか?(というか皆さんも上の文章を読んで、何かひっかかる表現はありませんか?)こんな妙なこだわりを持って授業を進めている国語教師は、100人中2、3人だと思いますが、お暇でしたら考えてみてください。長くなりましたが、私の「自己満へそ曲がり読解」は、次回紹介させていただきます。

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