さて、前回からの続きです。もともとは寛大な王であったディオニスが、なぜ「邪知暴虐」「奸佞邪知」の暴君になったのか?これは授業の中でも軽いジャブとして有効な発問ですが、前回書いたとおり、この部分は原典になく、全くの太宰の創作になります。「若い衆」との会話から考察してみます。
「王様は、人を殺します。」
「なぜ殺すのだ。」
「悪心を抱いているというのですが、誰もそんな、悪心をもってはおりませぬ。」
「たくさんの人を殺したのか。」
「はい、初めは王様の妹婿様を。それから、ご自身のお世継ぎを。それから、妹様を。それから、妹様のお子様を。それから、皇后様を。それから、賢臣のアレキス様を。」
「驚いた。国王は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。人を信ずることができぬというのです。このごろは、臣下の心をもお疑いになり、少しく派手な暮らしをしている者には、人質一人ずつ差し出すことを命じております。ご命令を拒めば、十字架にかけられて殺されます。今日は、六人殺されました。」
聞いて、メロスは激怒した。「あきれた王だ。生かしておけぬ。」
以上の内容から推測するにあたって、その理由は棒線部、王が「殺していった順番」が鍵になるのは間違いないでしょう。その上で生徒に発問すると、だいたい、「妹婿と世継ぎである王子が結託して王を暗殺して、王位簒奪しようともくろんだ。」というような「いかにも」ありそうなストーリーを考え出すことはできますし、おそらく太宰もその線で設定していたのではないかと思います。つまり、
①いつまでも元気なディオニス王に取って代わるため、王子が妹婿(義理の叔父)をそそのかし暗殺させようとするが失敗→妹婿死刑②妹婿が死刑になる前に尋問をうけ、王子と共謀したことを自白→王子死刑③事情を知らない妹が王に猛烈な抗議→妹もグルかと思う→妹死刑④妹の子(甥?姪?)が、両親を殺されたことを恨みに思い襲撃orディオニスが復讐されることを恐れる→妹の子死刑⑤皇后から狂人扱いとか批難され激高する→皇后死刑⑥賢臣というくらいだから国の行く末を案じたアレキスが命がけで諫言→激高して死刑
・・・なんて裏設定を考えていたのではないかと思います。(ちょっとシェークスピアっぽいかも。)これくらいのことがあれば、「人を信ずることができぬ」と疑心暗鬼を生じても、まぁ理解はできますよね。もとは善良で寛大だった王が、人間不信に陥る合理的な設定をつけたいがために、太宰治はこの前段を付け加えたのでしょう。
・・・ということで、まぁわかりやすいストーリーの一例を示して、授業の内容を進めればいいものを、「自己満へそ曲がり流」では、露悪的で余計な一言を言ったりするんですねこれが。(ヨセバイイノニネ、コノゴジセイニ。ヒソヒソ)
曰く「ポンコツ先生的には違うストーリーを考えます。まずですね、妹婿と皇后様が不倫をするんですよ。あるいは不倫をしたとディオニスに勘違いされるんですよ。」(こんなの中学生に言う必要性ゼロですよね。何をやってんだか。)そして娘婿を殺し、お世継ぎを(この場合幼児とか子どもっぽくなりますね。)「実は俺の子ではない!」として(あるいは思い込んで)殺し、あとはまぁ王位簒奪説と同じですが、この不倫説のポイントは、「身内で最後に殺したのが皇后である」ことです。つまりディオニスは、皇后を心の底から愛していた。だが妹婿に心変わりしていた皇后の気持ちを最後まで取り戻すことができなかったので泣く泣く殺した。あと、勘違い説だと、最後まで不倫を認めることがなかったので(勘違いなので当然)とうとうブチ切れて殺した。というへそ曲がり流昼ドラ的設定ですが、どうですか?・・・(中学生には結構賛同されましたけど、まぁ日本広しといえどこんな馬鹿な授業してる先生はいないでしょうね。)で、
と、JKに叱られたところで、次回は原典との違いその3について書かせていただきます。お時間があればまた読んでやってください。